2008年4月10日木曜日

世界一のキャディ(2)

ついに始まったマスターズ・ウィーク。

「マスターズに呼ばれないプロゴルファーは世界中から忘れられた一週間を過ごすことになる」
こんな言葉があるほど、プロゴルファーにとっては一年で最も出場したい試合である。詳細は後日。

さて、ここ数年のタイガー、マスターズ・ウィークは月曜日から早速の「早朝ラウンド」を行うのが恒例になっている。だれよりも早く、オーガスタ・ナショナルGCが認めてくれる一番早い時間から、仲良しのマーク・オメーラと、又は一人でじっくりとプレーし、日曜日の18番Hに照準を合わせる。

余談だがタイガーは毎年16番の池で半分おふざけ半分本気で水切りショットの練習をする。これがまた実に巧い。もちろん、そこにはご存じスティーブ・ウィリアムスの姿もある。
では宿題通り、スティーブのすごさについて語ろう。

スティーブ、実はこんな本を書いている。
「ゾーン」
彼は、グレッグ・ノーマンなどスーパースターのエースキャディを務めていたとき、あることに気がついたのだ。

それは、ある意味当たり前のことだった。

ゴルフのルールではキャディがプレイヤーとともに18Hの間一緒にいることができ、そのプレー等についてサポートする。つまり、今まさに試合をしているプレイヤーのそばで戦略等をアドバイスすることができる。それが、従前のキャディの仕事だった。誤解を恐れずに言えば、それだけだった、と言っても良い。

これに対して、スティーブは「プレイヤーのメンタル面のケアこそがキャディ最大の仕事」と言って憚らない。彼の功績は、キャディがメンタル管理をするということを「スキル化」したことにあるのだ。

彼はある日、グレッグ・ノーマンが試合中にもかかわらず弱音を吐いている時は本当に良くないプレーをし、集中しきった状態(いわゆる「ゾーン」に入った状態)で強気の発言をするノーマンはミスをミスにしないほどのプレーができることに気がついた。
そこで彼は試しに、メンタルタフネスの分厚い専門書に目を通して、こともあろうかノーマンで色々と実験してみることにしたのである。

その結果スティーブは、ゴルフはメンタルがあまりに重要な役割を果たしていることに気がつく(無論現在では当たり前のことなのだが)。

ノーマンに「僕はこのドライバーショットを失敗する!」と口に出させて打たせたティショットは、「僕はこのドライバーショットに成功する!」と口に出させて打たせたティショットよりも
・飛距離が出ず、
・曲がり、フェアウェイキープ率ががくんと下がる、
ということがわかったのだ。これは本当の実話らしい。

これを要するに、スティーブは、「ゴルフ最大の敵は自分自身の心理であって、次が自然(コース)だ。ならばまずゴルファーは自分の心理をマネージメントする術を学ぶべきだ」という。
ポジティブな思考、ストレスがたまったときのなるべく早いその発散と切り替え。
この心理的なサポートがスティーブにとってのキャディの仕事として最も重要なことであり、メンタルタフネスのスキルを惜しみなく、18H、タイガーに注いでいる。

だいたい、技術的な側面ではタイガーに云々言う資格なんぞだれにもないのだ。スイング・コーチのハンク・スウィニーですら、「私の仕事はタイガーがよりよい状態から外れてきたときに、どこが変わったのかを見つけ出し修正することだ」という。

世界一ライン読みが巧いタイガーがグリーン上でラインを読んでいるとき、スティーブは練習ラウンドでメモした距離や傾斜を伝えることはする。

だがラインについて積極的にアドバイスすることはない。

タイガーが「このくらいだろう?」と言っているとき、それは同意を求める独り言であることをスティーブは知っている。

そのときに優秀なキャディのする返事は一つだ。

「それでいい。俺の読みと全く同じだ。だからもし外れたら俺のせいだ、思い切って打ってしまえ」。

ミスショットが出たらスティーブはミスの要因が外的なものにあることを適切に告げる。そして時にはタイガーよりもミスをした「キャディ」を強く責め、タイガーの怒りを打ち消す。

「なんておれはバカなんだ、こんなクラブを持たせて!」と。

果敢なショットと無謀なショットの狭間で選択に迷ったとき、スティーブはタイガーがどちらを選べば
「残りを気持ちよくプレーできるか」
を考えるのであって、
「どちらが成功しやすいか」
を考えない。
これらは勿論、十分にテクニカルな裏打ちがあるからこそ、できる芸当ではある。

ただ、我々みたいなヘボゴルファーでも、一度でいいから、メンタルを本気でマネージしてくれるキャディについてもらいたいと思わないだろうか?

我々なんて、時にはおばちゃんキャディに「あ~ぁ~」とか言われてカチンときている始末。
ボールもクラブも探してくれないおばちゃんに出会ったとき、キャディフィ返せと思ったことがあるゴルファーは多いだろう。

スティーブは言う。
「アマチュアにこそ、ベストスコアを出させる自信があるね」

プレイヤーの実力を120%発揮できる環境を作ること、これが、世界一のキャディーの仕事だということができるだろう。

いよいよマスターズが始まるが、スティーブの行動にも興味をもって観戦してもらえば、よりそのおもしろさはアップこと請け合いである。

1 件のコメント:

yo さんのコメント...

ぬぅ・・・スティーブかっこいい。
なによりもふくらはぎがかっこよすぎる。